斉眉 仲合、同盟会話
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仲合物語
愛喜生憂
鳥が梢の上に止まると、その振動で葉が舞い落ち、男の肩に落ちた。
絵のような景色の中に在るのは、鳥の鳴き声、早朝の鐘の音、そしてーーその鐘を鳴らす人。
無剣:おーい……和尚一!
斉眉:なに?
「ドンドンーードンーードンーー」鐘の音がだんだん弱くなり、空の中に消えていく。
彼は鐘楼から降りると、私の前に来た。襟が少し湿っていて、髪も幾分か濡れて、頬に張りついていた。
彼は軽く頬についた髪を払いのけると、私を見ながらため息をついた。
斉眉:私はまだ髪剃(こうず)りをしていないから、本物の僧侶ではない。ただの世俗の人だ。
斉眉:本当にそう呼びたいなら、居士(こじ)と呼んだほうがいい。
無剣:不思議なんだけど、仏門に入った以上、なぜ髪を剃らないの?
斉眉:あなたも私と同じように仏門に入ったのに。
無剣:けれど、私はあなたほど心が仏門にない。
斉眉:心が仏門に… …本当に私はそういう風かな?
彼は私を見たが、眼差しには少し躊躇いがあり、私を直視出来ないようだった。
斉眉:そうじゃないかもしれない… …わ…
…私は仏門に入って、仏に己を捧げたいが、まだ俗縁を絶てずにいる。心の内には執念があり、それを捨てるこも、諦めることも出来ずにいるんだ。
斉眉:数多くのお経をあげても、いまだに悟ることが出来ない。私は恐らく… …
彼は私を視線から外し、青山の雨水に目をやった。雨が零れ落ちて、彼の目に入ったようだ。
その両目に映るのは、満天の星。その広さと、その奥深さと、その静けさと、そしてその安らぎ。けれどその下に、蠢く迷いと不安が隠れていた。
私はふと声に出して笑った。
斉眉:な… …何を笑っている?
無剣:世の中には悟れないものが多すぎる。だから悟れないところがあっても、少なくともあなたは他の人より優秀だよ。
斉眉:なぜそう言える?
彼は不思議そうに首を傾けて私を見た。
無剣:初めて会ったとき、あなたはこんなことを言ってくれたーー
私は思い返した。
斉眉:髪剃(こうず)りを出来ずとも、一心に、心の中で唯一の信念のもと身を捧げることが出来るならば、それは仏性の現れじゃないか?
一瞬、はっと悟ったように反応した。
無剣:あなたはもう、その境地に至ったのかもしれないと思うよ。
斉眉:そうなのか?だが…私は……
彼はまだ少し迷いがあり、心が落ち着かないようで、その一角が欠けた数珠をただ弄るしかなかった。
斉眉:仏様、この弟子めは……どうすればいいんでしょうか?
無剣:仏様は私と一緒に朝食を食べたほうがいいと思っているかもしれない。
彼は固まって長い間私を見たあと、ぱちぱちと目を瞑り、やっと口を開いた。
斉眉:……そうだね
愛喜生畏
斉眉:ま……また和尚などと呼んだら、絶対に反応してやらないからな。
無剣:斉眉居士、お時間はあるかな?
私はにっこりして彼を見た。その木魚を打つ手が止まり、振り向いて私を見るや、不思議そうに聞いた。
斉眉:用事でもあるのか?
無剣:用事があるんです。
斉眉:したいこと?
私は妙に笑って、綿の耳元に小さな声で言った。
無剣:ついてきて。
斉眉:その……分かった……
彼は少し躊躇ったが、頷いてくれた。
昨日の雨が過ぎたあと、空は晴れてきた。山林の空気は新鮮で、日差しが草木を照らし、木漏れ日が燦々としている。
道中では、心地よいほどに澄んだ小鳥の鳴き声が聞こえてくる。
斉眉:どこへ連れて行くつもりだ?
無剣:しーっ、ーー秘密。
彼は困惑した顔で私を見た。
斉眉:私を連れていくというのに、秘密にする必要がどこにある?
無剣:あなたが知るまでは、しばらく秘密なんだよ。
私はちょっと得意げになった。彼はため息をつくと、最後には何も聞かず、ただ私の後をついていった。
無剣:着いた。
前の草木が青々として、微かに水の音が聞こえてきた、。私たちはもう寺を出たのだ。
斉眉:ここは……
彼がここに来たことがないのは、明白だった。
無剣:ゆうべ、外をぶらぶらしていたときに見つけたんだ。ここを通ったときに微かに水の音が聞こえたから、あなたを誘って一緒に見てみたいと思ったんだ。
無剣:こんなに静かなところなら、きっと泉も澄んで甘いだろう。
斉眉:空山新雨後、天気晩来秋、明月松間照、清泉石上流……
彼はいきなり悠々と吟じた。
無剣:ぶ、仏門の人がなぜ詩を?まさか阿弥陀仏から文化人にでもなるつもり?
斉眉:私はただこの詩が、この光景にぴったりだと思って、声に出した。ただ思ったままに、行動しただけ、なんだが……
無剣:彼は少し躊躇って、口を閉ざした。
無剣:その言葉には少し仏門の道理があるね。行こう、泉が石の上を流れてるかどうか見に行ってみよう。
私たちは水の音を辿って、山奥に泉を見つけた。水は底まで澄んで、何十匹もの魚が泳いでいる。
無剣:魚だ!
今の自分は目が輝いていると思う。彼も私の意図が分かったのか、ゆっくりと私を見た。
斉眉:魚にも命がある、殺生をしてはいけない。
無剣:そうだ……忘れかけてた。あなたはお坊さんじゃないけど、殺生はしないし、肉も食べないんだったよね。
斉眉:そして酒も飲まない。
無剣:もし私が酒を飲んで肉を食べた日には、あなたは精進料理を食べながら私を見るつもり?
斉眉:これは……
彼は微笑んで私に視線をよこすと、軽くため息をついた。
無剣:どうしたの?なんでため息?
斉眉:酒は飲まない、が、……なんというか……別の物に囚われた……
無剣:何に囚われた?
斉眉:言えない。それを言うのは過ちであり、罪だ……
無剣:言えない?一体あなたの何が囚われたの?えっ、まさかあなたの心とか?
斉眉:そう……囚われたのは……私の心だ……
無所愛喜
彼が酒を手に戻って来た時、ちょうど一匹の蛍が草むらから飛んできて、点々と光る蛍火が彼の周りをぐるぐると回った。とても綺麗だ。
彼は私に酒を渡すと、おかもちを石の上に置いた。
無剣:あらら。
おかもちを開けると、中にいくつもの精進料理が並べてあった。
無剣:本当に精進料理を食べながら、私が酒を飲み肉を食べるところを見るつもり?
斉眉:本当にそうしたいのなら、その……お互いに見ながら食べるのも……大丈夫です……
無剣:君…
私は、結局のところ泳いでいる魚を殺さなかった。
斉眉:やはりあなたの心には善意がある。
無剣:あなたの辛そうな顔を見たくないから殺さなかっただけだよ。
それを聞いて彼は笑った。一匹の蛍が彼の肩に止まって、きらきらと光っている。
斉眉:あなたはそういう人じゃないって分かってるよ。だって私の心は、もう……ああ……
彼は低い声で呟いた。それを聞いて頬が少し赤くなったので、急いで酒を飲んでごまかした。
向かいの相手は気づいてない。彼はおかもちから箸を二膳取り出して、各自の前に置いた。
斉眉:酒は……美味いか?
無剣:飲んでみれば分かるでしょう?
彼はしばし考えると、頭を横に振って、少し止まって、歯を食いしばって、また頭を横に振った。
斉眉:酒は飲めない。
彼をからかうのやめて、少し笑った。
無剣:本当はそんなに美味しいものでもないよ。
斉眉:じゃなんでまた?
無剣:あなたが持ってきたから、飲んでも構わないかなって。
斉眉:ならもし私が持ち去ったら……持ち去ってしまってもいいのか?
無劍:あなたが持ってきたものだから、持ち去っても構わないよ。
私の機嫌が悪いと気づいたのか、彼は少し不安げに慌てている。
斉眉:もし酒を持って行かれたくないなら、あなたが飲むところを見ているのも構わない、私は……あなたを止めたりなどしないから。
斉眉:もし……本当に水にいる魚を食べたいなら、獲ってください。私……私は……止めたりなどしないから。
無剣:ふふっ、バカだなあ。
斉眉:なに?
無剣:酒を飲むと酔っちゃうんだよ。
手を伸ばして箸で料理を取る。
彼は呆然として、突然私の手を見つめる。
無剣:どうしたの?
斉眉:指に怪我をしたのか?
私はどうでもよさそうに一瞥をした。
無剣:あ……これか。大したことないよ。不注意に刀で切っちゃったんだ。
彼は痛ましげに私の手を取ると彼の口元まで持ち上げて、傷に息を吹きかけたくれた。
無剣:あなたに仏祖のご加護があらんことを。
彼の眉間に優しさがあふれている。、そっと息を吹きつけただけで、指が熱くなったかのような気がした。
無剣:今日はいい天気だね……
私は注意を逸らそうと試みた。
斉眉:ええと……うん……
彼は何かをやらかしてしまったことに気づいたのか、急いで頭を下げた。
何憂何畏
なんだかここ数日はよく眠れなくて、しょっちゅう目を覚ます。けれどよくよく考えてみても、悪い夢を見ているわけでもない。
もしかしたら、見ていたものの目が覚めたら忘れてしまっているだけかもしれないけれど。
「コンコン」、扉を叩く音だ。
無剣:誰だ?
斉眉:私だ。
無剣:あれ?今朝は鐘を鳴らさないなんて、何かあったの?
私は少しびっくりして、急いで服を着て外に出た。
彼は玄関に立っていた。笑顔は穏やかで、身なりもきちんとしている。けど彼を一目見た時からおかしいなと感じていた。
無剣:どうしたの?
彼に聞くと、彼は私を見やった。目がキラキラして、私はなんか怖じけづいてしまう。
斉眉:ついてきて。
私は呆然とした。その話はなんだか聴き慣れていると思ったが、それは先日、彼を連れて岩清水を探した時に彼と話したことだ。
無剣:あなたは……私と秘密を分かち合うつもり?
彼はただ笑って何も言わない、前をゆっくりと進んでいる。歩けば歩くほど暗くなり、いきなり傍らから出た炎が彼を飲み込んでしまった。
無剣:斉眉!
私はびっくりして急いで彼を呼んだ。彼は振り向いたが、炎が彼の服と髪先に燃えては揺れ、徐々に広がっていった。
彼はまるで何も感じていないかのように、激しく燃える火の中で私をじっと……じっと見つめている……
無剣:斉眉……
斉眉:ん?どうした?
無剣:私は今、夢を見ているのかもしれない。帰って寝て、起きたら元通りになるのかも。
彼は私を見て笑い声を零した。前の彼と全く違う。
目の前に炎が広がり始め、目も開けていられない。目の前が真っ暗になる。
無剣:うーん
斉眉:どうした?大丈夫か?
耳元から男の穏やかな声が聞こえてくる。何か冷たい物が顔に当たった。
無剣:私は……一体……?
斉眉:はぁ、あなたの体は弱すぎる。昨日風に当たっただけで熱まで出して、私は……
無剣:あ……なるほど。本当に夢を見ていたんだね……
斉眉:夢?何を見たんだ?
無剣:夢の中で……燃えている寺を見た……
話を聞いて、彼はびっくりして息を呑んだ。
無剣:どうしたの?
斉眉:私は釈門にいて、心は平静なはずなのに、私も昨日夢を見た。あなたが夢で見たものと同じものを……見た。
無剣:知ってるか?その夢の中に、その炎の中に、私の前に並べられたのは……私が大切にしている二つの物。でも一つしか持ち帰ることが 出来ない。
斉眉:何を持ち帰るべきが分からなくて、最終的に正しい選択をしたかどうかも分からない。分からない……何を選ぶべきか……分からない
彼は眉間をぎゅっと寄せた。その表情から、夢の中での足掻きと苦しみを感じ取れそうなほどだった。
無剣:でじゃあ最後は…
斉眉:分からない……まだ選べないうちに目が覚めた。
無剣:あなたは……大丈夫、それはただの夢に過ぎない。
彼を慰めると、彼は私の方を見た。、少しぼんやりしていて、他のことを考えているようだ。
無剣:ほら。
枕の下から一つの布の袋を取り出して、彼の前で開けた。中身は一連の数珠だった。作って磨かれたばかりの物で、赤い房もついている。
斉眉:これは……怪我をしたのは、これを作ったから?
無剣:うん……手もとにある数珠は前に一粒割っちゃったから、新しいのを作って弁償しなくちゃいけないと思って。気に入った?
斉眉:もちろん、気に入った……すごく素敵だ……
彼は私の手の中にある数珠をじっと見つめて、古い方の数珠を手首から外して手のひらで握った。ぼうっととしていて、何を考えてるのか分からない。
無剣:どうかしたの?
斉眉:あ?……あ……
ふと我に返って、彼は手に力を込めるとその数珠が彼の手から落ちた。珠がパチパチと地面に落ちて、いくつか私の前に転がってく
私は地面に落ちっぱなしの珠を見て、そして手にある赤い房がついた数珠を見た。
彼は頭を下げた。少し不安で、少し恥ずかしそうに見える。
斉眉:阿弥陀仏。恐縮です……
話が終わると、空は一気に明るくなった。陽の光が部屋の隅々に広がり、彼の体まで照して、揺れる炎のように光っていた。
同盟会話
○○の斉眉:毎日お経を唱えてきた私ですが、悟りはいまだに開いていません。
○○の斉眉:どうすればいいのか迷い、焦る日々が過ぎゆく中で、私は様々な出来事に平然と立ち向かうことができるようになりました。
○○の斉眉:この重いのためにすべてを捨てようと、未練はないのです……
○○の斉眉:私が会得した武芸は人と争うためのものではありません。
○○の斉眉:けれど大切な人を守るためなら……
○○の斉眉:心がどれだけ拒絶しても戦い続けます。誰かに必要とされなくなるまで。
○○の斉眉:悟れず出家もできぬ私ですが、寺を出自にもつのは間違いありません。
○○の斉眉:魍魎が出現する今、どれだけの門派の命が失われてきたというのでしょうか。
○○の斉眉:少室山は無事でしょうか……
判詞
二句目 風に波打つ松の木、灯火は何年にもなる
三句目 三千もの世界が塵の中
四句目 12階の夜の雨
五句目 風通しの良いカーテン
六句目 煎茶を飲みながら読書をしているといつしか花びら
七句目 が
八句目 ただ一つの願望は早く悟ることで
栄華に邪魔されずに開花したい
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コメント
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・悟れず出家もできぬ私ですが、寺を出自にもつのは間違いありません。
魍魎が出現する今、どれだけの門派の命が失われてきたというのでしょうか。
少室山は無事でしょうか……0
削除すると元に戻すことは出来ません。
よろしいですか?
今後表示しない